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Evidences &
Case Law Introduction
Of
The Issue of Military Bases

証拠・判例紹介

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1 はじめに

 航空機による騒音被害,墜落事故や米兵による犯罪など,基地周辺で様々な問題が起きていることは,テレビや新聞といったメディアで耳にすることが多いのではないでしょうか。中でもエンジンやプロペラによる騒音被害は,基地の周辺に住んでいる住民にとって,毎日続く問題です。そのため,これまでも全国各地で,爆音訴訟と呼ばれるたくさんの訴訟が起こされてきました。現在も、全国各地で爆音訴訟が係属中です。

 ここでは,第三次嘉手納基地爆音訴訟と,第四次厚木基地爆音訴訟をご紹介します。この二つの訴訟では,原告訴訟団及び被告国によって何が主張され,どのような判決が言い渡されたのか。我々がこれらの判例の学習を通じて触れることのできた,爆音訴訟を巡る様々な問題点の一端を,皆様にもご紹介できればと思います。

 本来爆音訴訟には膨大な判例があり、また訴訟に上ってない問題も無数にありますが、ここではそのほんの一部しかご紹介できません。しかし、たとえその一端にでも,できるだけ多くの方に、基地問題に触れてほしいと考えております。あまり法律や裁判に詳しくないという方にもできるだけ分かりやすく伝えるため,複雑な事案を一部捨象せざるを得なかったこと、ご容赦願えますと幸いです。

 

爆音訴訟調査研究センターによれば,全国の爆音訴訟の現況については2022年11月10日現在,以下の通り(原告数)
嘉手納:第四次訴訟が那覇地裁で係属中(35,566名)
普天間:第三次訴訟が那覇地裁で係属中(5,881名)
新田原:第一次訴訟が福岡高裁宮崎支部で係属中(178名)
岩国:第二次訴訟の提訴を目指し準備中
小松:第五・六次訴訟は上告せず、第七次訴訟の提訴を検討中
厚木:第五次訴訟が横浜地裁で係属中(8,878名)
横田:第三次新横田公害訴訟(1,282名),第十次横田基地公害訴訟(約240名)が東京地裁立川支部で係属中

2 第三次嘉手納基地爆音訴訟

(1)導入

 「第三次」嘉手納基地爆音訴訟という名称は,この訴訟が過去との連続性の上に立つものであることを示しています。嘉手納基地の周辺住民は,これ以前にも何度も損害賠償を求めて騒音訴訟を起こしてきたのです。現在は,第四次訴訟が係属中です。ここでは第三次訴訟までの歴史をご紹介したいと思います。

 

(2)嘉手納基地爆音訴訟の歴史

 嘉手納飛行場は,第二次世界大戦末期に旧日本陸軍が使用を開始しましたが,昭和20年,沖縄占領と同時に合衆国軍隊によって占領され,B-29大型爆撃機の主力基地として使用されるようになりました。

 その後,沖縄県は,アメリカ合衆国の施政権下に置かれることとなりました。これにより,本土復帰までの間は,飛行場の管理,航空機の運航などは,日本国の国内法の制約を受けることなく,すべて合衆国軍隊の権限の下にありました。その間,アメリカ合衆国は,嘉手納飛行場において,滑走路を拡張,建造するなどして,嘉手納飛行場を整備拡張していきました。

 沖縄県の本土復帰に際し,日米両政府は,日米合同委員会を通じて,沖縄県の既存の施設及び区域を合衆国軍隊に提供する協定を締結しました。嘉手納基地では、日米安保条約6条や日米地位協定により,嘉手納飛行場の運営,警護及び管理のため必要な全ての措置をとることができるとしています。

 昭和57年から昭和61年にかけて,嘉手納飛行場周辺の住民合計907名は,嘉手納飛行場に起因する爆音により被害を受けていると主張して,夜間早朝等の爆音の差止め及び損害賠償を被告である国に請求する訴えを提起しました(第一次嘉手納基地爆音訴訟)。福岡高等裁判所那覇支部は,平成10年, 住民らの過去の損害賠償請求を一部認容し,差止請求を棄却するとの判決を下しました。 平成12年,住民合計5544名は,再度,国に爆音の差止め及び損害賠償を請求する訴えを提起し,福岡高等裁判所那覇支部は,平成21年,第一次嘉手納基地爆音訴訟と同様に,住民らの過去の損害賠償請求を一部認容したものの,差止請求を棄却しました(第二次嘉手納基地爆音訴訟)。

 そして,平成23年,第三次訴訟が起こされます。

 

(3)第三次訴訟の事案の概要

 このようにして始まった第三次訴訟では、原告は軍用機の飛行差止、過去分・将来分の損害に対する賠償を請求しました。これについて、原告・被告双方の主張の要旨は以下の通りです。

ア 原告の請求の要旨

 ①原告は,人格権,環境権又は平和的生存権に基づき,毎日午後7時から翌日午前7時までの間において,嘉手納飛行場における航空機の離発着禁止と(主位的主張),原告らの居住地域に嘉手納飛行場の使用によって生じる一定以上の40dBを超える騒音到達禁止を求めるとともに,毎日午前7時から午後7時までの間において本件飛行場の使用によって生じる一定以上の65dBを超える騒音到達禁止を求めました(予備的主張)。

 ②過去の一定の期間の騒音について損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めました。

 ③口頭弁論終結の翌日から原告が差止めを求める行為がなくなるまでの間の将来の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めました。

 

イ 被告の反論の要旨

 ①米軍機の飛行差止について,国は嘉手納飛行場における合衆国軍隊の航空機の運航等を規制・制限し得ないため,仮に原告らの権利又は利益の侵害行為があったとしても,その侵害行為を支配内に収めているとはいえないとし,被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するのは不可能だとする,いわゆる第三者行為論を展開しました。また,原告の主張する人格権,環境権,平和的生存権については,権利の内容が不明確だなどとしてその侵害を否定しました。

 ②,過去分の損害賠償請求について,騒音被害の判断基準や測定方法を争うとともに,国が防音工事や移転補償といった対策を講じていることや,基地の公共性・公益性などを考慮して相当程度減額されるべきと主張しました。また,騒音が社会問題化している地域に居住しようとする者は,特段の事情がない限り,この騒音の存在を認識していると考えるのが経験則上通常として,一定の要件を満たす者への損害賠償責任を否定する「危険への接近法理」の適用も主張しました。

 ③,将来分の損害賠償請求については,損害額を算定するに当たっての判断要素(航空機騒音等の状況,転居, 住宅防音工事をはじめとする騒音対策の進展など)将来の状況の予測が困難な事項が多く,将来の不法行為成立の確実性及び賠償内容の確定性のいずれも満たしていないと指摘し,現段階での将来分の損害賠償請求を否定しました。

 

ウ 原告の主張の要旨

 原告らは,嘉手納飛行場を離発着する際の航空機の騒音,駐機場等で行われる航空機のエンジンテストによって発生する騒音,航空機の移動や飛行前のエンジン調整等に伴って発生する地上音など,嘉手納飛行場の航空機に由来する騒音に日夜曝されており,それによって,睡眠妨害,聴覚障害,生活妨害,精神的被害などの損害を被っていると主張しています。前述した被告国の主張に対しては、原告は次のように反論しています。

 ①第三者行為論については,被告国は,日米安保条約や日米地位協定の締結に当たり,差止請求に関し代償的措置を執ることができたにもかかわらず,嘉手納飛行場をアメリカ合衆国軍隊に提供し,原告らを含む周辺住民を爆音に曝し,かつ,その侵害を是正する手段を奪ったのであり,人格権の絶対性にも照らし,第三者行為論の適用は認められないなどとしています。

 ②被告国の周辺対策はいずれも原告らの実生活の騒音被害を軽減するのに十分でなく,また,米兵の犯罪や周辺の環境汚染問題に鑑みるに基地の公共性は否定されると主張しました。さらに,危険への接近法理については,嘉手納飛行場は,合衆国軍隊が沖縄県の占領後に住民を収容所に収容している間に土地を囲い込んで建設したものであり,原告らを含む住民は,このような現状を前にして,やむなく故郷の周辺に住みついていったものであって,原告らから危険に接近したということはあり得ず,むしろ,危険から原告らに接近し,居座ったものだ,などと適用を否定しています。

 ③将来の給付の訴えの利益が認められるかどうかは,将来生じる不確定要素の立証の負担を原告,被告のいずれに負担させるのが妥当かという問題に尽きるところ,嘉手納基地のような軍用基地の航空機騒音による損害の賠償請求については,騒音被害の内容及び賠償額は請求対象期間を通じて一定であるし,減額事由も原告らの転居と住宅防音工事の施工という客観的に明白な事実であって,かかる事実について加害責任を負う被告に立証の負担を課すことは不当とはいえないこと,騒音被害が長期間に及び,既にその違法性を認める判決が複数確定しており,将来請求を認容した上で請求異議事由を主張させることが当事者間の公平に適うこと,将来請求が認められない場合,被害者である原告らは,新たに損害賠償請求訴訟を提起せざるを得ず,訴訟提起と主張立証の膨大な経済的,精神的負担を負い,多大な時間を要する上,そのような訴訟提起による社会的コストも無視できないことを踏まえると,将来分の損害賠償請求も認められるべきなどと主張しました。

 

(4)判決要旨

 ①米軍機の飛行差止については,人格権に基づく差止認容の可能性を認めつつも,被告の主張の通り,第三者行為論を採用し,認めませんでした。

 ②過去分の損害賠償請求については,原告の主張から相当程度減額した上で一部を認容しました。

 ③将来分の損害賠償請求については,被告の主張の通り「将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない」として,認めませんでした。

 

3 第四次厚木基地爆音訴訟

(1)導入

 「第四次」厚木基地騒音訴訟という名称が示すように,嘉手納基地と同様,厚木基地の周辺住民はこれ以前にも何度も損害賠償を求めて騒音訴訟を起こしてきました。現在は、第五次訴訟が係属中です。ここではまず,第四次訴訟までの歴史を紹介します。

 

(2)厚木騒音訴訟の歴史

 旧海軍省が有していた厚木基地は,戦後アメリカ合衆国に接収され,アメリカ海軍の航空基地となりました。昭和30年代には滑⾛路の延⻑やオーバーランの設置などによる航空基地としての機能強化が図られ,また昭和35年頃からアメリカ海軍のジェット機が⾶来するようになったことから,騒音被害が深刻化していきます。さらに空⺟艦載機が⾶来するようになった昭和48年頃からは,厚⽊基地に離着陸する航空機による騒⾳被害は社会問題としてテレビや新聞等で⼤きく取り上げられるようになり,昭和51年9⽉には基地周辺住民92人が厚⽊基地における航空機離着陸等の差⽌め並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを提起して,第一次厚⽊基地騒⾳訴訟が起こされました。最高裁まで争われたこの裁判では,差⽌め及び将来の損害の賠償請求に係る訴えは不適法として却下され,住⺠の一部について過去の損害の賠償請求を認容する判決が確定しました。

 その後,昭和57年にはNLP(Night Landing Practice の略。夜間に行われる着艦訓練のこと)が始まります。これにより騒音被害は激化し,第一次と同様に厚⽊基地における航空機離着陸等の差⽌め並びに過去及び将来の損害の賠償を求めて第二次訴訟が提起されますが,確定した控訴審では,これも同じく過去の損害の賠償請求しか認容されませんでした。

 それでも,抗議の声の高まりは行政を動かします。国は暫定的な措置として硫⻩島でのNLPの実施を⽶国に申し⼊れ,合意に達しました。 

 しかしそれでももちろん,騒音被害がなくなったわけではありません。平成9年には再び過去及び将来の損害の賠償を求めて第三次訴訟が始まります。このときの原告の総数は最終的に5000を超えるまでになっていました。確定した控訴審では,これもやはり過去の損害の賠償請求しか認容されませんでした。また,そもそもこの訴訟では飛行差し止めは請求されませんでした。

 そして,平成19年,第四次訴訟が起こされます。

 

(3)事案の概要 

ア 原告の請求の要旨

 ①,主位的に,行政事件訴訟法(行訴法)に規定する抗告訴訟として,厚木基地における自衛隊機の一定の態様による運航の差止めを,また,米軍機の一定の態様による運航のために厚木飛行場を使用させることの差止めを求めました。

 ②,過去の一定の期間の騒音について損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めました。

 ③,口頭弁論終結の翌日から原告が差止めを求める行為がなくなるまでの間の将来の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めました。

 

イ 被告の反論の要旨

 ①,本件自衛隊機差止めの訴え及び本件米軍機差止めの訴えは,法定の差止訴訟としても無名抗告訴訟としても訴訟要件を欠き不適法であるとして却下を求め,特に米軍機に関する請求に係る訴えについては,第三者行為論を展開し,却下を求めて争いました。

 ②,過去の損害の賠償請求については,原告らが航空機騒音によって受けている影響は受忍限度内にとどまるとして請求の全部の棄却を求めるとともに,損害額についても争いました。

 ③,被告は,将来の損害の賠償請求に係る訴えは不適法であるとして却下を求めました。

 

(4)判決要旨

 ①自衛隊機,米軍機の飛行差し止めについて、控訴審では自衛隊機の一定時間の飛行差止が認められたものの、最高裁ではいずれも認められませんでした。自衛隊機の飛行差し止めについて最高裁は,「⾃衛隊機の運航には⾼度の公共性,公益性があるものと認められ,他⽅で,本件⾶⾏場における航空機騒⾳により第一審原告らに⽣ずる被害は軽視することができないものの,周辺住⺠に⽣ずる被害を軽減するため,⾃衛隊機の運航に係る⾃主規制や周辺対策事業の実施など相応の対策措置が講じられている」として,これを退けました。米軍機の飛行差し止めについては,嘉手納基地訴訟同様第三者行為論が展開されました。

 ②過去の騒音被害についての損害賠償については,これまでと同様一部の限度で認容されましたが,相当程度の減額を受けました。

 ③将来の騒音被害についての損害賠償については,控訴審では一部認められたものの,一審と上告審はこれまで通りこれを棄却しました。最高裁は,航空機の発する騒⾳等により周辺住⺠らが精神的⼜は⾝体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち将来の分については,将来それが具体的に成⽴した時点の事実関係に基づきその成⽴の有無や内容を判断すべき,としています。

 

4 総括

 これまで第三次嘉手納基地爆音訴訟と第四次厚木基地爆音訴訟を題材に,騒音訴訟の歴史,原告訴訟団の主張,被告国の反論,そして裁判所の判断をご紹介してきました。

 国家安全保障という次元で「基地」を捉える国(被告)と,自分たちの暮らしの中にあるものとして「基地」の弊害を訴える住民(原告)。それぞれに「正しさ」を主張する異なる次元の議論が,現行の法的枠組みの中で十分に噛み合っていない現状を,皆様にも感じていただければと思います。

今回の模擬裁判を制作する過程では,私たちなりに最大限裁判例や基地の現場の調査を行ってきました。しかし,それでも把握しきれていない問題や,力不足から皆様にお伝えできなかった側面も多数あるかと思います。それでも、本企画とその背景にある実際の裁判例のご紹介を通して,「現実」の基地問題に目を向けるきっかけになればと願ってやみません。

 ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。引き続き,模擬裁判2022をお楽しみください。

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